Mohri_01_MG_1104
毛利悠子《モレモレ:与えられた落水 #1–3》2015
木材、傘、ホース、ペットボトル、ゴム手袋、バケツ、車輪、雑巾、スポンジ、ポンプ、アクリル樹脂など
各2725 × 1758 × 500 mm (×3)「日産アートアワード2015」展示風景 撮影:木奥惠三


日本デザインセンターでアートディレクター、グラフィックデザイナーを務める荒井康豪さんに、アートやデザインにまつわる話を語っていただきます。第8回目のDDTN(どっかのだれかのとんでもないなにか。)は日産アートアワード2015について。

最近、デザインについてブツブツ考えることが多くなった。
 

今は、すべての人があらゆる方向を見ている。

例えば、30代男性Aと30代男性Bの間には、

年齢と性別以外、何一つ共通点がないということもあり得る。
 

以前なら趣味や休日の過ごし方、好きなテレビ番組や雑誌など、

ある程度の共通点が見られたが、今は趣味や好みが多様化し、

細分化されている。
 

なのに、大多数の人が納得する無駄のない合理的で最適な答えが、

デザインによって導き出されると思われている。
 

正直、とても窮屈である。
 

この時代、デザインが提示できるのはひとつの最適解ではなく、

一種の“パラレルワールド”ではないかと思うのである。

ある視点による(それが偏っていてもよく)、

今とは違う世界観や複数の刺激的な未来を

提案するべきではないだろうか。

こういうモヤモヤした時、決まってアートに触れたくなる。
 

先日、「日産アートアワード2015」を観に行ってきた。

まだ2回目の開催だが、久々にメジャー企業が力を入れて始めたということと、

アートアワード特有の緊張感を期待して行くことにした。
 

winner&Ghosn
撮影:越間有紀子
Photo: Yukiko Koshima



 
 

開催場所のBankART1929(神奈川県横浜市)はレンガ倉庫にほど近く、

それ自体も日本郵船の倉庫を改造した、趣のあるギャラリーである。
 

ファイナリスト7人の作品が展示してあったが、

政治色、ドキュメンタリー、新しい視点、造形力の秀でたものなど

バランスよく、それぞれタイプの違う作家たちだった。

 

グランプリは毛利悠子氏で、その作品はたしかに面白かった。

全然違うのだけれど、デュシャンの「泉」のような爽快感をなんとなく感じる。

既製品を使った作品が個人的に好きというのもあり、しげしげと見入ってしまった。
 

7人の中で一番好きだったのはオーディエンス賞にも輝いた久門剛史氏の作品。

記憶とか感覚とか、生きてきた時間に対して

ハッとさせられるような作品は後々まで引きずってしまう。
 

来年から始まるチェルフィッチュの新作の

舞台美術も担当するようで、とても気になる。
 

Hisakado_02_MG_1224
久門剛史《Quantize #5》2015
サウンド、電球、アルミニウム、真鍮、木、ジョーゼット、紙、
時計ムーブメント、シャープペンシルの芯、鏡、電池、他
6000 × 12000 × 5000 mm
「日産アートアワード2015」展示風景
撮影:木奥惠三



 

それぞれの作家の作品が少なく、作家自体を理解するには

少々もの足りないという難点はあったが、そもそもそういう趣旨の展示である。
 

美術館とは少し違った粗削り感も体験できたし、

行く前のモヤモヤもいくぶん解消された。

鮮やかな切り口や、新しい世界を垣間見せてくれた気がした。
 

改めて思う、アートの懐の深さを。
 

そして、範囲がある程度限定され、人々が自分のこととして

思えるデザインの分野でこそ、こういった感覚で

取り組むべきではないかと思うのである。
 

それらすべてをエゴと片付けていたら、実につまらない世界になってしまう。

そんな気がして、今日もブツブツ考えてしまうのである。
 
 

日産アートアワード2015 公式HP
http://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/
 
 

Poster

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日産アートアワード2015
ファイナリスト7名による新作展

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第一次選考にて選出されたファイナリスト7名による展覧会が開催中です。インスタレーション、彫刻、映像、写真など、
多岐に渡る表現が初めて披露されます。ぜひ、ファイナリストたちの作品を通して、日本の現代美術の今をご体感ください。

【会期】
2015年11月14日(土)~12月27日(日)
【開館時間】
11:00-19:00 無休
【料金】
入場無料
【会場】
BankART Studio NYK
〒231-0002 横浜市中区海岸通3-9
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<Profile>
荒井康豪
アートディレクター/グラフィックデザイナー。1974年東京都生まれ。
2003年より日本デザインセンター在籍。主に企業のブランド構築のためのクリエイティブを展開。
平行して実験的なグラフィック作品の制作、発表もおこなう。
ONE SHOW DESIGN金賞・銀賞、D&AD NOMINATION、ニューヨークADC銀賞など。

http://www.yasuhidearai.com

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Related Article

運営者情報

一般社団法人 日本アート教育振興会

Mail Magazine

更新情報・アートイベント・チケットプレゼントなど お知らせを御希望の方はお名前、メールアドレスをご登録下さい。

Art class

------------------------------------------------------------

------------------------------------------------------------

------------------------------------------------------------