Special Column 「アート ✕ 写真」
フォトグラファー宮木和佳子の写真お悩み相談室 Vol.11
「カメラマンのお仕事をするには?」
09/04
フォトグラファーとして、様々な媒体で活躍し、2014年4月からアートフォト認定講座監修・講師を務める宮木和佳子氏。プロとして、また講師としての経験から、カメラや写真に関する疑問に答えます。今回はプロカメラマンとして仕事をするにあたって必要な知識や心構えについて解説します。
「カメラマンです!」と宣言すればプロ?
こんにちは。アートフォト講座監修・講師の宮木和佳子です。
今月は、第4期の平日昼間クラスのみなさんが準1級を修了されていきました。
難易度が少し高かった修了制作でしたが、ああでもない、こうでもない、といろいろと努力され1つの作品に仕上げてくれました。みなさん修了おめでとうございます!
この頃になると、1級という壁が見えてきて、写真でできることも増えてくるので、
ご相談いただく内容として多いのが、「お仕事をやってみたい」というものです。
一口に「カメラマン」と言っても様々なジャンルや形態があります。
みなさんにも始められるものもあるかと思います。
しかもカメラマンは資格がいりません。そういう意味で、私もみなさんも条件は同じ。
前向きに考えると、誰でもなることができる仕事と言えます。
(今日から私はカメラマンです! と宣言すればいいのですから……)
ですが、それでやっていけるほど甘くないのも現実です。
誰でも簡単に名乗れるということは、肩書きなんてあってないようなもの。
急に信頼されて、お仕事がやってくるわけではないのです。
もし今、お仕事をやってみたいな、と思っている方がいらっしゃいましたら、
ほんの触りですが「写真を仕事にするということ」がどういうことなのかを
お伝えしたいと思います。
いい写真が撮れるのは“プロなら当たり前”
よく私が「カメラマンです」と自己紹介すると、大抵は「すごいですね」と始まり、
「やっぱりセンスあって、いい写真が撮れるから、お仕事できるんですよね」
と言われることがほとんどです。
実はこれは、大きな間違いなんです。
お仕事をする以上、いい写真が撮れることは「当たり前のこと」なんです。
クライアントさんが欲しいものが撮れている、ピントが合っている、
用途に合わせて使い勝手の良い構図になっていることなどは「初歩の初歩」。
仕事となった時点で「プロ」としてその現場に存在しているので、
プロならいい写真を撮って当たり前なんです。
パン屋に行って、「ちゃんとパンが焼けていて、ふわふわしていてすごいですね」
と言っているようなものです。それはパン屋さんだったら、当たり前のことですよね?
ですから、これから仕事をしたい人は、このくらいのハードルは当たり前に超えていないとダメだと認識してください。
ではこの先、何を大事にしながらプロは仕事をしているのか、
これをお話していきましょう。
プロはここが違う! 撮影だけがカメラマンの仕事ではない
大体仕事を受ける場合、「受注→打ち合わせ→撮影→納品」
という流れになります。フリーランスですと、これを1人で行います。
打ち合わせでは、
・ その撮影がどういうものなのか
・ 何に使用されるものなのか
・ 納品する際のデータ状況がどんなものなのか
・ 撮影場所、時間、タイムスケジュールはどれくらい余裕があるのか
など、細かく確認をします。仕事の70%がこれで決まる!
と言ってもいいほど、打ち合わせは大事です。
なぜなら、カメラマンは、クライアントさんの頭にあるイメージを写真という二次元のデータの「形」にすることが仕事です。そのため、イメージの擦り合せをしっかり行う打ち合わせがとても大事になるんです。
例えば、一口に「かわいい写真」といっても、女性と男性の「かわいい」は違います。
もちろん人それぞれ「かわいい」も違いますよね。
さらに撮影する媒体や目的によっても、「かわいい」の中でも微妙にニュアンスが変わってきます。「大人っぽいかわいさ」なのか「小学生が喜びそうなかわいさ」なのか……。
今、目の前にいる人が望む「かわいい」は一体何なのか、しっかり話し合うことが大事で、
いわばカウンセリングのような作業でもあります。
その際は自分の中で「かわいい」の引き出しが沢山ないとダメですし、それを話し合う語彙力、コミュニケーション能力も必要です。また、自分の意見や個性が強すぎても、クライアントさんの意向と離れてしまうこともあります。
カメラマンは写真だけ撮っているイメージですが、
それ以前に人と話したり、思いを共有しあったりするスキルが必要なのです。
特に初めてお仕事する方の場合は、細かい話になりますが、
服装、持ち物、話し方、打ち合わせの仕方、全てにおいて、
「このカメラマンは信頼できるのか」ということをジャッジされていると思ってください。
カメラマンは資格がないので、ある種、玉石混淆の世界とも言えます。
信頼関係は一朝一夕で作ることはできませんが、
やはり信頼を損なう可能性があるものは徹底的に排除する必要があります。
この時点で、「えー! 写真だけ撮っていればいいんじゃないの?」と思った方も多いとは思いますが、写真を撮るだけではプロとして仕事すること、またそれを継続していくこと、
さらに生計を立てることは難しいのです。まだまだ注意すべきことはたくさんあるので、次回も引き続き説明したいと思います。

(プロフィール)
1980 年1 月10 日生まれ。福岡県出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。在学中からカメラマンとして活躍し「金丸茂嶺賞」を受賞。2002 年、「日韓共同開催 若手カメラマン ON & OFF」で若手カメラマン50 人に選ばれる。3 年のアシスタントを経て雑誌、広告、ファッション、アパレルビジュアルイメージ撮影、写真集出版など活躍の場所を広げる。(有)アット・ウィルに在籍しつつ、2008 年11 月に株式会社ミニーナを立ち上げ代表取締役に就任。同年には西麻布にて初の個展を開催。2011 年(株)アットウィル、(株)ミニーナを退社し完全独立。2014年4月より、アートフォト認定講座監修・講師を務める。