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日本デザインセンターでアートディレクター、グラフィックデザイナーを務める荒井康豪さんに、アートやデザインにまつわる話を語っていただきます。第5回目のDDTN(どっかのだれかのとんでもないなにか。)は荒井さんが最近見た映画『6才のボクが、大人になるまで。』についてです。

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少し前に見た映画の話をしよう。と、エラそうに語ろうとしているが、本コラムの趣旨からすると、今回は結構メジャーな映画を紹介する。パトリシア・アークエットがアカデミー賞(助演女優賞)を受賞し、さらにメジャーになってしまったかもしれない、でも、どうしても避けて通れない“とんでもなさ”があったので紹介させていただきたい。
 
この連載をはじめて気付いたのだが、作る側の人間の無謀さに筆者は反応する。この『6才のボクが、大人になるまで。』(原題:BOYHOOD)という映画もそんなリチャード・リンクレイター監督の無謀さによって実現した作品かもしれない。

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というのも、この映画は主人公の少年メイソンJr.(エラー・コルトレーン)が6才から18才になるまでの、実際の12年間を映像にしたものだからである。ただ、ドキュメンタリーではない。脚本がちゃんとあって、役者として演じているのだ。12年間、毎年同じ時期の1週間だけキャストが集まり、続きを撮っていくという手法で、監督曰く「時間そのものを描きたかった」そうである。
 
少し想像するだけで、この“とんでもなさ”がよくわかる。
もし誰か1人でもスキャンダルを起こしたら、メイソンJr.役のエラー・コルトレーンが役のイメージと全然違う成長をしてしまったら……。今までの努力が水の泡。「全員で縄跳び100回チャレンジ!」みたいなものである。クリエイターとしては、恐ろしいプレッシャーだと思う。
 
12年間、すぐに成果が出るわけではなく、膨大な費用が消えてゆく。そのことで、なじられ、バカにされたかもしれない(筆者の妄想です)。それでも、ひたすらガマンなのである。これには強靭な開き直りが必要である。
 
ただ、筆者は思う。
この開き直りこそがクリエイターには必要なのではないか。本当にいいとされているものでさえ、完成し世に出るまでは、所詮フワッとしたものでしかない。なきゃないで誰も困らない、なければそのことに気付くこともない。
 
成功した暁にはインタビューで「いいものができると確信していたから」とよくある決まり文句もついついこぼれ出るかもしれない。しかし、同じクリエイター(レベルは圧倒的に違うが)として言わせてもらうと、そんなのウソだ!「先のことなんか考えてない! ひたすら突っ走ったのだ! なんか面白いことしないと気が済まない! ちまちましたくだらないことをしていても何も変えられないんだ!!」という思いで作品を作ることもある(あくまで筆者の憶測です)。
 
……取り乱してしまってすみません。誤解のないように言っておきたいが、筆者は仕事に対して不満やストレスなど感じたことは断じてない。しかし、この監督のような開き直りが、まだ見ぬ新しいクリエイティブにつながっていくのかもしれない。クリエイターの一人として、“とんでもないなにか愛好家”として、リチャード・リンクレイター監督の次回作を早く見たいものである。次回作は12年後というのは勘弁だが。
 

【About the Movie】
2014年2月、第64回ベルリン国際映画祭で上映された1本の映画が世界を驚かせた。監督は、『恋人までの距離(ディスタンス)』から始まるビフォア・シリーズで知られるリチャード・リンクレイター。同映画祭で彼に二度目の監督賞(銀熊賞)をもたらした『6才のボクが、大人になるまで。』は、6歳の少年とその家族の変遷の物語を、同じ主要キャストで12年間に渡り撮り続けた画期的なドラマ。これまでどんな映画作家も試みたことのない斬新な製作スタイルと、歳月の力を借りながら少年の成長の過程を画面に焼き付けていくみずみずしい作風により、「21世紀に公開された作品の中でも並外れた傑作の1本」(NYタイムズ)と評された、映画史に残るマスターピースだ。米映画評集計サイトのRotten Tomatoesでは驚異の高評価100%を記録、早くもアカデミー賞最有力の声が上がっている。
 

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■作品タイトル:6才のボクが、大人になるまで。
■原題:BOYHOOD
■監督・脚本:リチャード・リンクレイター
■出演:パトリシア・アークエット、エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレーター、イーサン・ホーク
■配給:東宝東和
■2時間45分 
■公式HP:http://6sainoboku.jp/


(Profile)
荒井康豪
アートディレクター/グラフィックデザイナー。1974年東京都生まれ。
2003年より日本デザインセンター在籍。主に企業のブランド構築のためのクリエイティブを展開。
平行して実験的なグラフィック作品の制作、発表もおこなう。
ONE SHOW DESIGN金賞・銀賞、D&AD NOMINATION、ニューヨークADC銀賞など。

http://www.yasuhidearai.com

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