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日本デザインセンターでアートディレクター、グラフィックデザイナーを務める荒井康豪さんに、アートやデザインにまつわる話を語っていただきます。第4回目のDDTN(どっかのだれかのとんでもないなにか。)は荒井さんが最近見た現代アーティスト、ジョン・ジェラードの作品についてです。

少し前から気になっていた作家の展示を最近ようやく見に行くことができた。それは表参道にあるおしゃれなギャラリー『ラットホールギャラリー』で開催されていた。インターネットで知って、ギャラリーの前まで来たものの、ポスターはおろか、告知的なものが何もない。あれ、休み?? 小学生の時、友人宅に遊びに行ったら、誰もいないのに玄関の鍵は開いていて、洗濯機の音だけしていたという全く無駄な記憶がよみがえってしまった。
 
どうみても鍵がかかっていそうな重々しい磨りガラスの扉は、意外にもスルリと開いた。洗濯機ではないが、近い周波数でプロジェクターの音だけがする……。
 
メインの部屋は真っ暗。巨大なスクリーンがあり、アメリカ郊外の巨大な畜舎というランドスケープが映し出されていた。ほぼ静止しているのだが、よく見ると非常にゆっくりと、視点がその建物の周りを360度旋回している。
 
この映像は、ジョン・ジェラードという作家の作品である。スクリーンに映し出された映像は、実はその場に行って数千枚のスチール写真をまず撮影し、それを元にリアルタイム3Dコンピュータ・グラフィックスという技術を駆使して作り上げられているヴァーチャルな映像である。この技術はもともと軍事用に開発され、その後ゲーム産業に波及していったものを利用しているという。この時点で“とんでもないなにか愛好家”として、静かな興奮を禁じ得ない。
 
しかし、一番のとんでもなさは、作品の尺が“永遠”ということである! 24時間365日のサイクルで、畜舎のある風景を映し出しているのだが、個展ごとにインターネットで会場に配信されるこの映像は、止まる事なく今も作り出され続けている。(キュレーターの方の話を間違って捉えていなかったら)
 
まるで作家が時空のDNAを採取して、そのクローンというべきパラレルワールドを作り上げた、そんな印象だ。
(筆者の個人的な感想です)
 
映像は、朝、昼、夜と移り変わる。次の年の同じ日だったとしても、風向きや気温、空模様などは違う。現実世界と同様、決して同じ瞬間は無いのである。被写体が、絶え間なく豚が分娩し続けている畜舎ということからも何らかの強烈なメッセージを感じる。
 
もちろん、この映像は本物の景色にしか見えない。ただしというべきか、それ故というべきか、生理的に受け入れがたい不気味さがMAXなのである。本物にしか見えないのに、今まで感じてきたものと絶対に違うという、人間というか動物の勘が働くのだ。
 
いちおう言っておくが、筆者はこれ見よがしなものより、この作品のように「すました顔つきで、なんか変」「なんか狂っている」という種類のとんでもなさが好きである。
 
そういえばギャラリーに着いた時、すでに動物的な勘が働いていたのかも知れない。小学生時代の記憶が予感した不気味さはあながち的外れでもなかったようである。
 

ジョン・ジェラードHP
http://www.johngerrard.net/

ラットホールギャラリーHP
http://www.ratholegallery.com/exhibitions/2014/04Gerrard/release-jp.htm


(Profile)
荒井康豪
アートディレクター/グラフィックデザイナー。1974年東京都生まれ。
2003年より日本デザインセンター在籍。主に企業のブランド構築のためのクリエイティブを展開。
平行して実験的なグラフィック作品の制作、発表もおこなう。
ONE SHOW DESIGN金賞・銀賞、D&AD NOMINATION、ニューヨークADC銀賞など。

http://www.yasuhidearai.com

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