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日本デザインセンターでアートディレクター、グラフィックデザイナーを務める荒井康豪さんに、アートやデザインにまつわる話を語っていただきます。第7回目のDDTN(どっかのだれかのとんでもないなにか。)は荒井さんが出張先で訪れたあるアートの街についてのお話です。

ひと月近く海外出張をしていた。
チリの首都サンティアゴから始まり、飛行機で北上してアタカマ砂漠へ。その後、チリ北部の都市アントファガスタヘ行き、またサンティアゴへと戻るという旅であった。そんな旅のさなかでも、筆者はとんでもないものの収集に余念がない。今回はその出張の途中に訪れた、とんでもない街について書こうと思う。

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“バルパライソ”
この単語を聞いてピンときた人はかなりの海外旅行通か、世界遺産オタクかのどちらかだろう。
 
そう、バルパライソとは世界遺産にも指定されている南米チリの立法首都である。パナマ運河ができるまでは、南米の主要港として大きく栄え、加えてヨーロッパ諸国からの移民も多く受け入れたため、ヨーロッパの様々な様式の建物が散見できる。
 
日本語に訳すと「天国の谷」という意味で、どの旅行ガイドを見てもこの街のカラフルな美しさを賞賛している。
 
しかし!
そんな耳障りのいい、うわべの情報は南米には通用しない!
筆者はこの街に着いたとたん愕然としたのである。たしかに、海沿いの建築物はどれも立派で重厚感もある。問題は、ケーブルカーで登りきった丘の上のディープスポットなのである。
 
とにかくカオス!
グラフィティアートが渦巻いていて、とにかくやりきっているのである。趣味がいいとか悪いとか、つっこむ隙を与えない、とんでもない勢いなのである。場所によってはまるで校内暴力で荒れ果てた校舎にしか見えないようなところもある。
 

とにかく唖然!
作者不明というか、作者人間というか。
やりきることで人間のアートの根源を表現しているのである、しかも街全体で。
ディレクションという考え方が世の中にはある。しかし、ここにはそれがない。アートフェスティバルが自然に発生したのだ! 冒頭に書いたように歴史的な建物もあり、建物自体はカラフルで可愛かったりもするのだが、それらをキレイに保護しようという動きはなく、ひたすら、落書き、あ、いや、グラフィティアートが覆い尽くしているのである。
 

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さらに、火事で全焼したような家があったので、地元の案内人にどうしたのかと尋ねれば、15年前からずっとこのまんまと言うし、犬のフンもそこらじゅうに放置。治安もあまり良くないのだという。
 

ズバリ! 世界遺産として、整備しようという気がサラサラ無いのである!!
誤解しないでいただきたい。筆者は、彼の地を批判する気はみじんも無い。すべてがありのままで、いろいろな人種がそれぞれの個性をひたすらぶつけあった、そのカオスな状態が評価されたことに驚きつつも、むしろ賞賛しているのである。
 
日本では富士山が世界遺産になった瞬間に「ゴミをキレイにしろ!」「世界に恥ずかしい!」と叫ばれていたと思うのだが、それはとても正しいことだと思ったし、その気持ちが変わることは無い。だが、ここまで合わせない人たちを目のあたりにすると、こういう考え方もアリかと思ってしまう。バルパライソに関しては、それもひっくるめての世界遺産なのではないだろうか。
 
きっと、日本の旅行会社もこの魅力を上手く伝えられず、カラフルで美しい街みたいなヌルい言い方に逃げているのであろう。
 
チリは、現地語で“地の果て”という意味だという。アフリカ大陸で誕生した人類がグレートジャーニーを経て、最後にたどり着いた地であることに起因している。
 
これが本当の最後という土地は、「まだ何かあるさ」とやり過ごしてきてしまった人類を、とんでもなくさせる何かが漂っているのであろうか。
 

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(Profile)
荒井康豪
アートディレクター/グラフィックデザイナー。1974年東京都生まれ。
2003年より日本デザインセンター在籍。主に企業のブランド構築のためのクリエイティブを展開。
平行して実験的なグラフィック作品の制作、発表もおこなう。
ONE SHOW DESIGN金賞・銀賞、D&AD NOMINATION、ニューヨークADC銀賞など。

http://www.yasuhidearai.com

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